特定秘密保護法(本ブログ執筆時点(12月3日)の時点では法案です)について、日本弁護士連合会の方から再三に渡る決議に反対する旨の声明がだされています。
日弁連のサイト→http://www.nichibenren.or.jp/activity/human/secret.html
日弁連の声明の中で出されている法律の内容に対する批判としては、概ね次のとおりです。
・ 保護対象となる「特定秘密」の範囲が広範・不明確である
・「特定秘密」の指定が行政機関の長により恣意的になされてしまい、第三者機関のチェックが働かない
・「特定秘密」が行政機関の判断により期限の定めなく秘密のままにすることができる
・ 内部告発や取材等行為についての処罰範囲が広く、厳罰に処するものであるため、表現の自由及び報道の自由や知る権利等憲法上の権利が侵害される
・ 秘密を取り扱う人に対して行われる調査を行うこと(適性評価制度)により重大なプライバシー侵害が生じるおそれがある
・ 行政機関の長の判断で「特定秘密」を国会に対しても提出を拒むことができることになっていることにより国会の国政調査権が空洞化される
私も、日弁連の声明で出されている批判内容に同意します。特に、「特定秘密」の範囲が広範である一方で、情報にアクセスしようとする一般人にまで重罰が課せられるような条文となっており、知る権利の行使について強い萎縮効果を与えるのではないかと思います。仮に、今後同法で起訴された方について刑事弁護を行う場合、刑事裁判上問題となる特定秘密の内容については弁護人への開示が同法上全く想定されていない点も大きな問題となりえます。何が問題となって起訴されたかも分からないままで、弁護人が被告人の権利を守るために十分な活動をすることができるかについては大いに疑問があります。
特定秘密保護法の議論の中で、推進側の自民党の議員の方から、「この法律は治安維持法とは違うので市民の権利を侵害することはない」という発言がなされたという報道も目にしております。この点、治安維持法は「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニ加入シタル者」(共産主義等の組織をつくるか加入した者)を処罰するためにつくられた法律ですので、法律の内容が違うのは事実です。ただ、特定秘密保護法が、治安維持法同様の道筋をたどり、結果取り返しの付かない人権侵害をもたらす可能性はあると私は考えます。治安維持法は制定後改正を重ね処罰範囲を拡大し、重罰化した上、予防拘禁(刑の執行を終えたものも再販防止のため身柄を拘束すること)も認めるようになりました。また、条文を拡大解釈することによって、治安維持法が当初の目的である共産主義等の組織をつくるか加入した者の処罰に留まらず、濫用され多数の逮捕者・処罰者を出した事実は歴然としてあります。広範な範囲で一般人まで重罰を課すことができる条文を有する特定秘密保護法が、今後改正や運用を重ねた末、立法当時の国民が想定もしていなかったモンスターに育っていくのではないか、非常に不安です。
先般北海道大学法科大学院において「司法制度論」という講座のゲスト講師を務めてきました。
この講座は、北海道の弁護士過疎、司法過疎問題を通じて、司法制度や法の支配のあり方などを考える、ということを目的とした講座で、北海道弁護士会連合会のバックアップの元施行されています。講座には毎回道内の弁護士過疎地域で活躍する弁護士、関係者などに出席いただき、主任教授のプランの元(現在は札幌の木下尊氏弁護士が主任教授)過疎地の業務の体験談や現状の問題点、今後のあり方などについて語っていただいております。
不肖私もこの講座ができた当初から、5年連続でゲスト講師として一つの授業を担当させていただき、旭川弁護士管内の弁護士過疎の状況や問題点、これに対する対策、弁護士会の対応状況(公設事務所や法律相談センターの展開など)について説明させていただいております。
ただ私は平成16年から19年にかけて公設事務所弁護士として弁護士過疎・司法過疎問題の最前線にいたものの、すでに旭川という非過疎地域で開業して6年になります。
またその後弁護士過疎・司法過疎に関する状況は大きく変化しました。例えば平成19年当時私の事務所しか法律事務所がなかった名寄支部は、弁護士3名が登録し、私が所長をしていた名寄ひまわり基金法律事務所は既に4代目の所長が赴任しております。
当時私がやろうと思ってもできなかった、地域の様々な機関の連携やネットワークの構築も徐々にできるような状況になりつつあります。
ですので本来であればこの講義には私などが出ずに、地域で活躍する各先生方が出るのが本来なのでしょう。
ただ私は旭川弁護士会に登録して来年で10年になりますが、その間弁護士過疎問題、司法過疎問題について様々な出来事がありました。
また私は、旭川に登録した後、弁護士会の役員も務め、これら過疎地で活動しているだけでは分からないようなことも知ることができ、ある意味現場にいる人たちとは別の視点を持つ機会も得ることができました。
今後弁護士過疎、司法過疎問題において私の役割があるとしたら、これらの歴史や過疎地で活躍する先生方では分からないようなことを伝え、現場で活躍する方々のバックアップをすることだと考えております(もっとも本当は今でも過疎地の現場で活動したいという気持ちを捨てきれないのですが・・)。
主任教授の木下先生によると、今年は約60人の学生が受講しているそうです。
今日の講義を通じて、少しでも弁護士過疎、司法過疎問題に関心を持ってもらい、今後弁護士過疎、司法過疎の現場で活躍する端緒になってくれればと願ってやみません。
今時の法科大学院の学生の方々は大変だと思いますが、今後の活躍を心よりお祈りいたします。
北海道弁護士会連合会(道弁連)は、1993年からサハリン州弁護士会との交流を開始しており、本年で交流20周年を迎えています。サハリン州の法曹の北海道訪問と、北海道の弁護士のサハリン訪問を一年ごとに続けてきました(私も過去3回上記交流のためサハリンを訪問させていただいております)。そして、道弁連では交流20周年記念事業として、本年11月に下記の通り交流20周年記念シンポジウムを開催します。ロシア・サハリンの法律事情について学ぶことのできる良い機会だと思いますし、個人的にも興味深い分野です。どなたでも参加できますので、ぜひご参加のほどよろしくお願いいたします。
北海道弁護士会連合会 サハリン州弁護士会 交流20周年記念シンポジウムのお知らせ
【開催概要】
(日時)
2013年11月14日(木)13:30~16:40
(場所)
ロイトン札幌2階リージェントホール (札幌市中央区北1条西11丁目,TEL:011-271-2711)
(概要)
第1部<講演>
「日本弁護士から見たロシア等のCIS諸国における 司法・弁護士制度の実情(予定)」
スピーカー:松嶋希会弁護士
第2部<パネルディスカッション>
「ロシアにおける法的紛争解決 一進出した日本企業が直面する問題等(予定)」
パネリスト:松嶋希会(日本国弁護士)・ユジノサハリンスク仲裁裁判所裁判官(予定)・サハリン州弁護士2名(予定)
(対象)
どなたでも参加可能 定員120名程度 参加費無料(事前に申込必要)
(問い合わせ先)
弁護士山田裕輝(道弁連北方圏交流委員会副委員長)
電話 011-261-6980 FAX 011-261-6981
最近相当にサボり気味でしたが(汗),久々に投稿させていただきます。
今日は弁護士に依頼する際の注意事項についてお話ししたいと思います。
法律相談を受けていると「もっと早く相談に来ればいいのに」という相談者によく出くわします。
ただそういう人に「なんでもっと早く相談しなかったの?」と言った際,よく言われるのが
「弁護士は「先生」とか言われていて,偉そうで,相談しにくい。」
「以前相談したことがあるが,とても話しにくくて,嫌だった。」
「弁護士費用がいくらかかるか説明がなくて,不安だった。」
という台詞です。
またたまに
「依頼したのはいいのだけど,弁護士費用についての契約書がなく,どの程度費用がかかるか分からなかった」
「契約書もないのにものすごい高い成功報酬を請求された」
という話まであります。
そういう話を聞いていると実に残念な気持ちになります。
実は「紺屋の白袴」などと言いますが,法律関係を扱う弁護士であるにもかかわらず,自分が依頼を受ける際には契約書を取っていない,
という弁護士は以前は決して少なくありませんでした。
また「先生」と呼ばれる立場にあぐらをかき,依頼者に対してろくろく説明もせず受任し,事件処理をする,という弁護士がいたことも否定できません。
しかし平成16年に弁護士職務基本規定が制定され,その中で依頼を受ける際の注意事項がいくつか定められております。
概要は以下のとおりです。
1.弁護士は事件を受任するに当たり,処理の方法,弁護士報酬及び費用について適切な説明をしなければならない(29条1項)。
2.依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず,見込みがあるように装って受任してはならない(29条3項)。
3.受任するに当たっては弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作らないといけない(但し緊急性があるときやごく簡易な書面作成等を除く)(30条)。
要は「事件を受けるに当たっては見通しを説明しなさいよ,勝てる見込みがないのに勝てると言って受けちゃいけないよ」「契約書は作りましょうね」ということです。
一般社会ではごくごく当然のことですよね(笑)。
まして我々は,「契約書がないじゃないか,だから代金は払わない」とか
「手術を受けるに当たってそのリスクを説明されていないから説明義務違反だ!」
などと裁判で主張するのですから,自分が依頼を受ける際にもそれを守るのは当然のことですよね。
ただ弁護士職務基本規定が制定されてから既に10年近くがたちますが,残念なことに未だ依頼を受ける際に委任契約書を作成していない弁護士がいるのも事実ですし,
またろくろく説明もしない,報告もしない弁護士がいるのもまた事実です。
もし今後弁護士に依頼する機会がある場合に上記のような不満を持ったら,是非このブログの記事を思い出していただいて,
「確か委任契約書ってのを作る必要があるんだな」
「依頼者には説明を受ける権利があるんだな」
と考えていただけると幸いです。
また前記したように,これらの義務は弁護士職務基本規定に定められた義務でもありますので,もしそんな弁護士に当たったら,依頼する際に一考した方がよろしいと思います。
なお当事務所ではホームページにも記載があるとおり,事件の受任に当たっては丁寧に説明をすることを心がけております。
もし当事務所の依頼者の方,若しくは相談をしようと考えている方で,ちょっとわからない,という方がいらっしゃれば遠慮なくお申し付けください。
このブログでもご紹介させていただきましたが、去る11月14日に、北海道弁護士連合会とサハリン州弁護士会の交流20周年を記念したシンポジウムが開かれました。シンポジウムでは第一部でロシアでコンサルティング会社に勤務している松嶋希会さん(日本国弁護士)の講演がなされた後、第二部では松嶋さんのほか、サハリン州の弁護士であるタンジリャ・イヴァノヴァさんとリジャ・ロシチュキナさん、ユジノサハリンスク仲裁裁判所裁判官であるオリガ・ボヤルスカヤさんの4名で、ロシアの司法制度やロシアに進出した会社が直面する法的問題等についてディスカッションがありました。ロシアで現実に法的問題に携わっている皆さんの生の声を聴くことができ、法律実務家として非常に勉強になりました。
裁判官のオリガさんは、日本の企業はアメリカなどの他国に比べて法的安全性を図る努力を怠っており、その結果として撤退に追い込まれていると指摘していました(シンポジウム内ではサハリンでの実例を挙げていました)。日本がサハリンにおいて不愉快な目にあうのは、日本の会社がロシアの法律を調べておらず、専門家の支援も受けていないからだということです。仮に法的紛争があったとしても、ロシアで裁判所を使うことにより権利を実行することはできるので、ロシアの法律家の支援を受けて問題解決をすることを考えてほしいとも話しておりました。この点、ロシアでは日本の裁判の判決があっても、二国間協定がないことからロシアでの執行ができないという問題点があり、日本法をつかう日本の弁護士の力だけでは問題解決が難しい点があります。裁判官の指摘通り、ロシア進出の際には日本国内だけではなくロシアの弁護士の力も借りるべきであると思います。
また、サハリンの弁護士からは、ロシアのビジネスや法的問題に関する情報が日本にはあまり出ておらず、その一方で日本の会社がロシア進出に関してハードルになっている問題点についてもロシアにはあまり伝わっていないという指摘もありました。ロシアと日本との情報交換にあたってはこうした大きなシンポジウムだけではなく、これまでの交流でできたパイプを使っていくことができればよいと思います。私個人としても、サハリン州弁護士会やロシアとは今後も交流を続けていくつもりですし、そこで得た情報等をブログやツイッターを利用して皆様にもお伝えできればと思います。