本日、復興相が短文投稿サイトのツイッター上で市民団体などを中傷した参事官を同日付で30日間の停職とする懲戒処分としたことを発表しています。報道によれば、この参事官がツイッターで行った投稿のうち、特定の団体や被災地の地方議会を中傷した6件が信用失墜行為に該当するとしたとのことです(2013年6月21日付日本経済新聞サイト)。この参事官は匿名(当初は顕名でしたが変更)で投稿していたものの、投稿者を特定されて上記処分につながったものです。ツイッター上の投稿は公開設定にしている場合、誰からも見ることができ、ログも残りますので、後で投稿を削除したとしても投稿した事実をなかったことにはできません。問題ある投稿をした場合、後から多くの人がネットで見ることとなりますので、投稿の内容も広く知れ渡ってしまう可能性があります。
こうしたツイッター、あるいはフェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は今では多くの方が使うようになっていますが、その投稿が訴訟の証拠として使われるようになってきました。ツイッターやSNSは投稿した日時もわかりますので、投稿者がいつ何をしたかも投稿から推測することは容易です。たとえば、勤務先からなされた懲戒処分の相当性が訴訟で争点となった場合、勤務先側が処分の理由を裏付けるためツイッターの投稿(勤務時間内になされたもの)を持ち出してくることもでてくるようになりました。
特に投稿内容が証拠として持ち出されそうなのは、離婚訴訟です。もともと携帯電話のメールの内容が理由で不貞行為が発覚した、というような事例は珍しくはありませんが、リアルタイムで投稿するツイッターやSNSでは、投稿内容だけではなく投稿した日時までわかりますので、たとえば○月○日○時に夫と不貞行為の相手が一緒の場所にいた、などということが特定されたりします。投稿場所についても表示させることもできますので、その場合には尚更明らかになってしまいます。
ツイッターやSNSでは投稿の公開範囲を限定することはできますが、それでも投稿内容が本来見せたくない相手に伝わる可能性はゼロにはできません。たとえばフェイスブックでは、投稿内容について「友達のみに公開」という形にすることはできますが、その友達の一人が…ということもありうるからです。まして公開範囲を限定していない場合には、誰かがとったログの内容がそのまま後で問題視され、訴訟の証拠として提出される可能性があると考えておくべきです。
ツイッターやSNSは便利でありますが、上記のような落とし穴があることを頭に入れた上で利用していくべきでしょう。
昨年5月に、本弁護士ブログにて生活保護制度についてとりあげておりますが、同制度について政府が本年5月17日に法改正案を閣議決定しており、国会で議決されれば制度が大きく変わる可能性がでてまいりました。
生活保護法の改正について、日本弁護士連合会は「生活保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急会長声明」をだしており、改正案の廃案を強く求めています。日弁連が廃案を求める理由は、①保護の申請に申請書(必要書面の添付をしたもの)の提出しなければならないことが法律で明文化されたことにより、保護の申請権が侵害されること②保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けることにより、保護申請者を委縮させてしまうことの2点です。
生活保護の申請に関して福祉事務所の対応にある苦情(日弁連生活保護110番から)として多いのが、そもそも福祉事務所が申請させない(申請書を渡さないなど)対応をとられたというものです。現在法律上は生活保護申請に申請書の提出を要するとする根拠はなく、口頭の申請でも認められるというのが裁判例としてもあります。したがって申請書面の提出がなくとも、福祉事務所は申請の意思を示されれば申請を受理する必要はあるのですが、違法な対応がこれまでなされてきたということになります。改正案が法律として成立すれば、これまで違法だった福祉事務所の対応が法律上の根拠を得ますので、申請書や添付書面の不備を理由に申請を認めないというケースが増加することはまず間違いありません。
また、これまでも保護開始の決定の前に、親族に対し電話等で扶養の可否について照会を求めることはありましたが、改正案では福祉事務所の方から書面をもって通知をすることが義務付けられることになっていますので、申請者にとっては心理的ハードルがさらに上がることになります。生活保護が必要な人は必ずしも親族との関係が良くない方もあり、そのような方は親族の資力の有無にかかわらず自分が生活保護を受けることを知られたくない、ということから申請を断念することも増えると思われます。
昨年本弁護士ブログでも指摘した通り、福祉事務所の不適切な対応の背景として、生活保護に十分な予算が与えられておらず、現場の福祉事務所が予算のことを考えなければならない状態におかれていることがあると思います。ところが政府は本年度予算で8月からの生活保護費の抑制を始めており、改正案も生活保護費の抑制を行うことを目的としています。こうした予算の削減に伴い、さらに福祉事務所の現場の対応が歪み、必要である人が生活保護を受けられないことになることを危惧します。
生活保護は特別な人が受けるものではありません。従前は元気に働いていた人でも健康を害したり、事業に失敗したりするなどして収入が閉ざされ、生きるための最後の手段として生活保護を受ける人は沢山います。生活保護を一時的に受けることで苦境を乗り越え、再起した人にも私は沢山会ってきました。そうした生きるため、再起するための最後の手段につきこれ以上ハードルを上げるべきではないと私は思います。
憲法記念日ブログ,最後は現在話題となっている96条の改正についてです。
自民党は,改正憲法草案を発表しつつ,取りあえず改正のためのハードルが高すぎるとして,96条を改正しようとしておりますが,これは憲法の本質を無視した極めて危険な改正だと思います。
これを考えるに当たっては,まず憲法の本質,というものを考えないといけません。
過去の歴史を遡ってみると,市民の人権侵害は,市民が市民に対して侵害を行うのではなく,国家が市民に対して行うものが大半を占めておりました。思いつく限りで挙げてみると,古くは秦の始皇帝による焚書坑儒(思想・信条の自由)から,比較的近代のものとして,ナチスドイツによるユダヤ人虐待(人種差別),日本での治安維持法による弾圧(思想信条の自由),検閲(表現の自由)などなど,挙げればきりがありません。更に近いところを言えば,原発問題での情報操作(知る権利)なども含まれます。
国家権力は巨大であるが故に,これを悪用して人権侵害をした場合,一般人同士の人権侵害に比べ,はるかに害が大きいのです。
憲法はこれら国家による人権侵害から国民を守るためにできたものなのです。
そのため憲法は基本的人権が永久不可侵の権利であると明記し,かつこれを最高法規としています。
いわば国家の権利を制限するためのもの,と言ってよろしいと思います。
そのため憲法は様々な条文を設けております。
例えば憲法99条は憲法尊重養護義務を定めておりますが,その対象となるのは「天皇又は折衝及び国務大臣,国会議員,裁判官その他公務員」であり,国民全般を対象としておりません。このことからも憲法で規制されるのが国民ではなく国家である,と言うことが分かると思います。
逆に言えば,国家権力を運用しようとする立場の人から見れば,憲法は自分らの行動にたがをはめようというものですので,非常にうっとうしいものと言うことになります。
ただそのうっとうしい憲法を権力を運用する立場の人たちが安易に改正できる,というのでは,せっかくの憲法の意味がありません。
例えば会社には就業規則というものがあります。これは給料や解雇その他についての手続を定めたものですが,これを改正するには労働法により従業員の明確な同意が必要と言われています。これを会社側が勝手に改定できるとしたら,従業員が急に解雇されたり,給料を減額されるなどして,著しい害が生じるからです。
憲法も基本的にはこれと同じ事です。憲法を安直に改正できるとすると,国民全般に著しい害が生じます(どのような危険があるかは前回のブログをご参照下さい)。
そのため憲法98条は憲法を国の最高法規と位置づけ,その上で改正手続については96条で通常の法律より厳格な手続を要するとしているのです。
以上のことからおわかりかと思いますが,憲法96条は国家権力から国民の人権を守る上で重要な手続上の意義を有し,安易な改正は許されるべきではありません。
今回自民党は,96条の発議要件が厳格に過ぎるので,これを先に改正し,その後憲法全般の改正について議論するべき,としております。 しかし前回のブログで述べたとおり,自民党案は基本的人権の尊重という見地からは極めて危険な内容を含んでおり,到底賛同できません。
ただどうしてもその内容に改定したいというのであれば,これを正面から国民に問いかけて議論するべきではないでしょうか。
以前のブログに記載しましたが,私は憲法を絶対化する必要はないと思いますし,時代に応じて変化することはやむを得ないと思っております(例えば人権の多様化など)。国民がどうしても自民党案でいい,というのであれば仕方ない・・と言わざるを得ないでしょう(ただ私は自民党が改正した憲法の下で生活する気はありませんから,海外に逃げると思います。笑)。
ただ先に改正の内容を説明せずに,改正手続だけ俎上に載せるという方法は,卑怯な方法と言わざるを得ません。
このブログをご覧になった皆様には,是非96条の重要性というものをご理解いただき,その上で判断いただければと思います。
先日に引き続き憲法改正について。
ちょっとくどいと思われるかも知れませんが,大事なことです。
先日のブログでは,何故今時憲法の改正などを検討するのか,ということを述べましたが,ここではどういう改正が検討されているのか,について述べてみたいと思います。
先日も引用しましたが自民党の憲法改正案。
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf
正直私もまともに検討をしたのは今回が初めてなのですが,これは極めて危険なものだと思います。
よく新聞等で取り上げられるのは,9条の平和主義及びこれに関する国防軍の創設についてで,これについては賛否分かれると思いますのでここではあえて取り上げません。
問題は改正案12条,13条以下の人権の擁護規程です。
これまでの日本国憲法では,基本的人権は擁護されるとしつつ,「公共の福祉」に服するものとされていました。
ここでいう公共の福祉とは,「人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理」とされ,全ての人権に内在的に存在する,とされています。
例えば表現の自由という権利がありますが,何の根拠もなく他人を誹謗中傷することは刑法の名誉毀損罪等に該当する可能性があります。これは他人を誹謗中傷する表現を無制限に認めたら,その相手方の人権を毀損することになるので,それを公共の福祉により制限した,といえるでしょう。
いわば「公共の福祉」で基本的人権を制約する,といってもごく当然のことに過ぎないのです。
ところが自民党案によると,「公益及び公の秩序」に基づき,基本的人権を制限できるかのような文言が入っております。
この点確かに「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」とは似た表現に見えるかも知れません。
しかし「公益及び公の秩序」とは前述した「公共の福祉」,すなわち人権相互の衝突の場面だけではありません。
例えばある人が「現在の原発政策はおかしい。即刻原発は廃止するべき。」と発言したとしましょう。現在の自民党は原発容認のようですので,原発容認派の立場からしたら,このような発言は好ましくありません。そこで「原発を維持して電気を確保する」という「公益」によって,前記発言をやめさせると言うことすら出来かねません。
またそれを裏付けるかのように自民党案21条2項は,「公益及び公の秩序」に反する表現,結社を禁止し,また緊急事態の時には緊急事態宣言を発して国民の権利を制限できる規定もあります(自民党案98条)。
つまり自民党の考えている憲法改正が実現してしまった場合,国民の権利義務を国家が考える「公益及び公の秩序」で制限できる,とするもので,極めて危険なものと言わざるを得ません。これでは人権を「法律の留保」つきで制限できるとした大日本帝国憲法と大差ないのではないでしょうか。
確かに最近の人たちには権利ばかりを主張し,義務を負担しようとしない傾向があり,その点に警鐘を唱えたい,というなら分からないではありません。ただ先月のブログ「違憲審査権」において述べたとおり,今の議員さん達は自らの都合ばかりを考えて,憲法や人権の重要性が分からず,自らに都合の悪いことを国民一般に押しつけるためにこのような事をしているように見えてなりません。
またこのようなことを国民一般が望んでいるとも到底思えません。
前回も言いましたが,現在やるべき事はもっとたくさんあるはずです。
もう少し考えていただきたいものだと思います。
小学生児童の運転した自転車にはねられて寝たきりの状態になったとして、被害者の家族と保険会社が、児童の母親に損害賠償を求めた訴訟で、本年7月4日神戸地方裁判所が母親に計約9500万円の支払を命じた判決を言い渡したことが各種メディアで報道されております。
判決の事案については報道の限りでしかわかりませんので判決内容の当否自体はここでは書きませんが、一般論として自転車で交通事故を起こした場合も、自動車で事故を起こした場合と同様に高額の損害賠償責任が生じることはありえます。また自転車の場合自動車と違い子どもが乗ることも多いですが、上記判決のように、親権者が子どもが自転車を運転するにあたり必要な監督をしていなかったということで親が損害賠償責任を負うことも十分あり得ます。
また、自転車で交通事故を起こした場合には上記のような民事上の責任だけではなく、重過失致死傷罪等の刑事責任が問われることもありえます。
夏場には北海道でも自転車に乗る方も多く、ロードバイクでロングツーリングを楽しむため北海道を訪れる方も多くいらっしゃいます。ただ自転車は下り坂等では普通自動車並みの速度を出すこともできる危険性をはらんだ乗り物でありますので、交通ルールを守って事故を起こさないようにしていただきたいと思います。以下、自転車を乗るにあたり特に気をつけていただきたいことを書かせていただきます。
1 車道通行の際、左側通行の原則を守ること
自転車は「軽車両」として道路交通法の適用があり、原則として車道を通行する必要があります。そして車道を通行する場合には、道路の左側部分を通行しなければならないのはもちろんのこと、道路の左側端によって走る必要があります(道交法17条4項、同18条1項)。
車道を走る場合にも、車道の左側ではなく右側を逆走する自転車もみることがありますが、大変危険な行為なので車道の左側通行の原則を守るようにしてください。
2 歩道を通行できる場合でも安全に配慮すること
自転車は原則として車道を走る必要がありますが、道路標識で通行を認めている場合や運転者が児童及び幼児・70歳以上の者など車道通行が危険な場合等については例外として自転車で歩道を通行することができます(道交法63条の4)。ただしこの場合でも、自転車は歩道の車道よりの部分を徐行しなければならず、歩行者の通行を妨げることとなる場合には一時停止する必要があります。
歩道を走る自転車と歩行者の交通事故は特に重大な結果につながりやすいので、歩道を自転車で走る場合には安全に十分配慮すべきです。
3 事故を起こした場合に救護義務・報告義務を果たすこと
万が一自転車で交通事故を起こした場合には、自動車事故同様運転者に救護義務・報告義務が法律上定められていますので(道交法72条)、事故の被害者を救護した上、事故が生じたことを警察に報告するようにしてください。自転車事故の場合安易に考えてこれらの義務を果たさない例もありますが、法律違反であり罰則の適用の可能性があるばかりではなく、慰謝料の増額事由にもあたりえるところです。
4 保険に入っておくこと
自転車による交通事故の場合で高額の損害賠償責任が問われうることは上記のとおりですが、万が一事故をおこした場合でも、保険加入をしておけば保険から賠償金を支払うことができます。自転車に自分や家族が乗る場合、自転車事故を対象とした個人賠償責任保険には必ず入っておくべきです。自動車保険で特約がつけられる場合もありますので、自分の保険の契約内容を一度確認することをお勧めいたします。